救世主現れる

丹谷 聖一

患者さんの訴え・・・

「先生、人生一回で良いからもう一度アワビが食べたいよ」「また海外旅行に行って気兼ねなく食事を楽しみたい」「数十年ぶりの再会する仲間と食事会を楽しみたい」「娘の結婚式に恥ずかしくないように歯を治したい」「これから癌の長期の治療にはいるからその前に歯を万全にしたい」。本当に様々な思いがある。私は多くの患者さんに出逢い人生に触れてきた。

 私の使命は、患者さんが最高に喜ぶ治療を行うこと。もう一つは、患者さんに予防概念の本質を伝えることである。ご縁のある患者さんには、健康を基軸に本当に幸せな人生を歩んでもらいたいと常日頃考えている。昨今、全身の健康と口腔内の健康が密接な関係にあることは、周知の事実となっている。ここで少し、口腔内の健康、食べられること(咀嚼)の大切さについて触れてみたいと思う。

 食とは、衣・食・住の「食」であり、人間にとって「食べる」ということは、無くてはならない行為である。また、その食事を自分の歯で食べられるということは、極めて幸せなことである。しかし重要なのは、食事は単なる栄養の摂取だけではなく、人生の大きな楽しみの一つであることも忘れてはならない。例えば「誰かと食事をする」「思い出のある食べもの」など、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、食感、歯ごたえ、歯触り、噛む衝撃(刺激)、五感の全てを刺激し脳が活性化する。これらは大切な楽しみでもあるし、生きるための必要な刺激でもある。また、病気になってしまった時の回復期においても大切な刺激となり、唯一の喜びとして回復の兆しになることも患者さんのご家族や、介護の現場から良く聴く話である。ここで、2つの興味深い口腔内の健康・咀嚼に関しての結果を紹介したい。

 1つめは、2012年に行われた『人生の振返り』に関する有名経済誌の調査結果である。健康分野における第1位は「歯の定期検診を受ければ良かった」であった。もう1つは『人生の後悔』に関する調査結果では、70代の健康分野において「歯を失ったこと」が後悔第1位であった。因みに歯の定期検診を行っていた人の残存歯数は平均15.7本、歯が痛くなった時だけ治療を受けてきた人の残存歯数は平均6.8本との統計がある。10本近い残存歯数の違いがある事に驚く。これらから解ることは、やはり歯を守るということは、人生において大切なポイントであるとことが理解出来る。私自身もちろん生涯自分の歯で食事(咀嚼)をしたいと思っており、これは誰しもが願う思いかもしれない。

 現在日本において平均寿命女性87,45歳、男性81,41歳と長寿大国であり、喜ばしい反面それによる問題もある。それは、長く生きていれば歯を失う機会も多くなるということである。つまり、歯を使う時間が長くなり、様々なストレスによるトラブルに、見舞われることが多くなってきたとも言える。

 私が臨床において本当に難しいと感じているところは「力と時」の問題である。人は日々の生活の中、想像を絶する力を歯にかけていることをご存知であろうか。例えば、ものを噛み砕くとき、奥歯一本に、自分の体重くらいの咬合力が加わっていると言われて                いる。そして、朝・昼・晩、毎日欠かすことなく咀嚼力にさらされているのである。また、睡眠時の歯ぎしり、噛みしめにおいては、普段起きている時の十数倍の力が加わるなどとも言われている。

もちろん、全身状態においても同様に変化を余儀なくされる。健康な時は、想像すらしない様々な疾患に見舞われることもあるであろう(梗塞、痴呆、糖尿、腎臓疾患・・・色々上げればきりがない)。

私は歯科医師として、毎日多くの臨床に向き合っているが、その中でもどの様な状態の患者さんに頭を悩ますかというと。多くの歯を失い咬合の崩壊をきたしているケースである。患者さん自身もどこで噛んだらいいのか解らなく、食事もままならないことが多い。口腔内に残存している歯も、抜歯とも、残せるとも言い難い状態で、更にそれらのケースは、様々な治療痕により口腔内全体が無秩序な状況になっている。これらの問題を抱える患者さんを、知識、技術の総和により、咀嚼出来るよう蘇らせ、社会生活を営める状態に回復させるのだが、そこからがスタートでもあり、長期的に安定させることが更に重要なこととなる。

時は絶対に止められない、それを忘れてはならない。

生命の維持のため咀嚼も止めることはできない。

「時と力」を踏まえ患者さんの口腔内状況、生活習慣、価値観、感性、人生を融合させ満足いく結果を導き出そうとする時、何が出来るのか。

私は、前述した難解な状態の患者さんにおいても、可能な限り歯を残したい。そして、一回行った治療は必ず長く使ってもらいたい。

結論として行き着いたところは、この様な複雑な思いを可能にする治療法として、私は、伝家の宝刀コバルトコーヌスを応用している。技術の総合デパートのような難しさはあるが、インプラントとも相性が良く、清掃性も良好で、「時と力」に柔軟に対応できる最良の解決策の1つであると考えている。

歯は命、本当に大切なのである。天然歯も補綴装置も時間経過と共に、すり減ったり、壊れたりする。これは必然である。

もう一度言うが、この複雑で過酷な口腔内という環境下に適応し、変化に対応していける補綴装置。それがコバルトコーヌスである。

私の臨床を勇気づけてくれ、患者さんにより一層寄り添うことを可能にさせてくれるもの。正にコバルトコーヌスは私の救世主なのである。

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