自分の歯科人生を振り返って

酒井 昭彦 

 今ある私がどのように作られてきたか、チョー簡単にお話しさせていただきます。乱文ですが少しお付き合いください。
歯科医師になり早、数十年が過ぎようとしています。長い様な短いような。歯科大学の卒業試験、国家試験を無事終了して、このまま開業医に就職するか大学に残り専門を選んで勉強する方が良いか迷っていました。
実家は歯医者さんではないし、父は現役バリバリのスーパーサラリーマンだったので、すぐ帰って来なくて良いから自分で何処か好きなところを探して勉強でもしてこいとの事。卒業したてで、当然臨床知識は当院実習程度、何処か総合的な診療知識が得られるか考え大学に残ろうと思いました。大学病院は多くの専門の科目を有しています。説明しますと歯内療法(歯の根っこの治療)、保存(虫歯中心の科目)、補綴(歯の被せ物中心、最近はインプラントも?)、部分、総義歯(いわゆる入れ歯)、口腔外科(口腔内の外科処置専門)、歯周科(いわゆる歯槽膿漏専門)などがあります。患者さんは必要な治療によってお遍路さんの様にそれぞれの科をクルクル回るのです。
話が少しそれましたが。そんな訳で良く考えて総合的な知識を得られるのではないかと思い歯周治療に残る事にしました。
なぜ総合的と思ったか。歯周病とは昔は歯槽膿漏と呼ばれ、読んで字の如く歯の周りの骨が溶けて膿が出てくる病気です。最後は歯がポロリと抜ける怖い病気です。今は意外とメジャーな歯科疾患です。
歯周病の治療は次の項目があります。プラークコントロール(口の中のバイキンを取ること)、虫歯治療(穴があると歯ブラシの邪魔)、根管治療(根っこの先端の病気の感染源が周囲の歯茎に影響するので)、簡単な咬合調整、適合不良の被せ物、詰め物の修正(適合の良い仮歯に交換)、噛み合わせの確保(一時的な入れ歯)などを行っていきます。最近はインプラント、歯の小矯正も。これらの治療を組み合わせて行う事によって歯周組織の安定、保全をします。
つまり歯周病治療とは歯科の総合的な治療と言えるのです。
そんな訳で大学では歯周治療科に数年間在籍し治療の基礎と対応法について学びました。まず1年目、お茶汲み、使用済みスケーラーの刃の研磨、教授の授業のお供、先輩医局員の治療見学、研究論文の読み会がメイン。つまり使いっ走りですね。
オタク性格の私はスケーラーの刃を研ぐのが結構好きでした。スケーラーは歯に付着した歯石、汚れを除去する道具ですが、ソフトタッチで軽く削ぎ落とせるぐらいの刃先である必要があります。研磨の後の刃先で紙をスーッと抵抗せず切れる様をみてフッと喜んでました。
2年目、やっと担当患者を受け持ち、一人で歯周検査(歯周ポケット測定、歯肉出血指数、歯根露出量の測定、などなど)を行い、治療方針の作成、症例検討会、治療方針の決定を行います。
それから治療。ブラッシング指導(これが一番大変!! 衛生士はまだ付かないので。)も一人で。ただ大学は分業制なので歯周科の仕事は歯周病の停止、と安定のみとなります。
3年目、衛生士もつき、少し楽に。基本的な治療では改善の観られない歯周ポケットの外科的アプローチも加わります。適切な基本的治療(患者の適切なホームブラッシング、ポケット内根面のデブライドメントなど)が行われていれば、外科処置が必要な場所は数カ所に限定されます。
逆を言えば適切な基本治療でなければ外科処置が増えると言う事です。
先生もスケーラーの使用に熟知する必要があると言う事です。衛生士任せではダメですね。
4年目、6年生も4人程度担当して指導する事になります。歯周治療の基本的なことは大体できる様になってます。できないのは他の科のもの。根管治療、補綴治療(歯冠補綴、部分義歯、総義歯など)などです。この頃から何となく物足りなを感じまくり。このままで良いのか迷いがフッフッと。時々根管治療もするように、幸い助教はどんどんやれやれと言ってくれましたが、教授は『隣の芝生は青く目える』と言ってましたが。
5年目、もやもやが続くよどーこまでも。自分が目指した総合治療ができなくなるのではと考え在籍半ばにして退職願を提出しました。大学生活の終了。

一般歯科医院の就職

そんな訳でまず何から始めようと考えました。とりあえず働かなければと思い、束縛のない歩合制の良いところが見つかり、少人数制の歯科医院に就職しました。
まず、歯科の基本と言えば根管治療、補綴治療(入れ歯も含む。)だろうと勝手に判断。これは良いと思った関連セミナーを受講しまくったり、専門書を読み漁り何が良い方法なのか、実際の臨床で使ってみて納得の得られた方法を掘り下げて学習するといった方法を数年間行ってきました。根管治療は感染根管をメインに、コア、ガッタパーチャの効率的除去、ステップ形成の穿通、作業長の症例別決定法等を、補綴治療、虫歯治療はカリエス(感染象牙質など)のミラーテクニックによる完全除去、インレイ、アンレイ、5分の4、その他の部分被覆冠、全部被覆冠はセラモメタルクラウン、金属冠の形成形態の把握を石膏模型にて練習後に患者に応用する。この繰り返しを行う事によって体で覚え込みました。
デンチャーが難題でした。知識は学生実習と教科書の知識ですので。昔の教科書の読み直し、関連専門書の読み込みをしてまずモデリングコンパウンドによる筋圧形成の練習、咬合採得(患者の頭位、咬合高径、前後左右の安定顎位の決定)の練習、考察をしてきました。この時はまだ人工歯の排列は技工士さんにお任せしていました。のちに開業後にゴシックアーチ、人工歯の排列
をするようにもになりますが。この人工歯の排列は噛み合わせが適切に取られていればバランス良く並べることができることがわかりました。また、かみ合わせの記録には術者の誘導によるもの、患者の自発運動を利用するか(ゴシックアーチなど)迷いもありましたが、簡単に言えばどちらでも良いと結論しました。術者の誘導は年季が必要ですね。練習しかありません。
ただ顎関節の位置異常の陳旧形には下顎位の安定が得られないため、治療義歯をあらかじめ作る必要があることも理解しました。ここまででなが〜く時間がかかりました。
多くの時間を費やしてきましたが、この時の経験が今の治療スタイルの基礎を作ったのだと思います。

開業

『そろそろまた違う病院を探そうか』と考えたいた頃。実家から珍しく電話が入り、家に戻ってくれとのこと。その当時実家の隣には兄が歯科医院を開業していました。兄の諸事情でその病院を引き継いでほしいとの事。自分の思い描いた病院も色々は考えてはいましたが困っているようなので引き継ぐことに。新生 酒井歯科医院の誕生です。
ここは山のてっぺんの尾根にある環境、普通の住宅街の中にぽっんとあります。看板もチョー小さく地味なので住宅の中に同化しています。景色はとても良いです。ただ台風の直撃を受けます。
雪に弱いです(あがってこれない、タクシーもこれない)。

『初めにした事』
 病院の大掃除(かなり汚れてました。綺麗が基本です)。自分のスタイルにあった技工士への交代。病院の治療スタイルの大幅な変更。とりあえずこれ。
患者さの対応の諸問題を改善(まあ色々)をして、診療スタイルの改革をしました。意外と大変で2年ほどかかりました。合わない患者さんは消え、新しい患者さんが増えてきました。
従業員たちは兄からの継続で働いていただいていましたが『患者さんの層がかなり変わってきました』と言われました。良い意味で。
こんな場所ですから飛び入り患者さんは皆無で、近所の方がメイン、あとは紹介患者さんほとんど、なが〜い坂道を登ってこられた方々に感謝です。ただたまに飛び入り患者がいるとみんなで『お〜』と言ってビックリしてました。
病院では自分のスタイルは変えずいつもどうり、感染根管治療ほとんど、たま〜に神経の除去
入れ歯、意識はしていない審美治療(機能性のある造形は綺麗ですので)その他もろもろ
治療を行っていました。
ただこの規模の歯科医院で本当の技工室を持っていましたから、診療後、入ればの模型作成、咬合床、人工歯排列、歯肉形成をやるようになってました。ゴシックアーチトレーサーも時々、噛み合わせの不安定な方には診断目的で使用していました。ここまでは自分で。完成は技工士さんにお任せ。
部分入れ歯は、基本動きを最小限に抑える設計にする。ケースによりコンパウンドによる選択加圧の併用。オルタードキャストテクニックの併用。歯の前処置がある場合はピックアップ印象。
これらをごちゃ混ぜにして対応で落ち着きました。
総入れ歯の治療は筋圧形成法、咬座印象法でそれなりに結果は良いのですが、何か物足りない。
術者主導の方法では無く、患者主導の方法が良いのでははいかと思い、粘膜調整材料によるダイナミック印象法に興味を持つようになりました。
ただ実行に移すには問題ありありで、印象の完成体をどうやって完成に置き換えるかで頓挫してしまいどうしようか。色々な関連本を読み漁っていました。歯科医向け、技工士向けの本も関係のない雑食が功を奏しました。『歯科技工』技工士さん向けの本です。偶然に中込氏のページを見つけ、バックナンバーを全て買い求め読みました。これだと思い即電話。これが中込氏との出会い。ただ会うのはもったいないので今見ている患者で、同様の方法で咬合器に人工歯排列が完成したものを用意しておきました。見せた時の感想、60点ぐらい。今も色々勉強させてもらってます。

デパート歯科医の完成

こんなわけでこんな職人、何でも屋の歯医者ができました。
卒業から今をダラダラ書いてきました。成功も失敗もたくさん経験しました。どうしてもわからないこともありました。今もわからないことだらけです。ただ患者さんに迷惑がかからない程度にはなっているとは思っています。
ただ後悔はあります。自分には師に付いて勉強したことがありませんでした。なんと遠回りをしてきた事でしょう。小さな疑問が出ると本を買って読み、なければ次の本、この方法は非効率です。ただ聞けば解決することもあったと思います。残念です。
ただの愚痴です。
今はコーヌスクローネテレスコープ法の進化型のコバルトコーヌスを臨床に取り入れ、更なる進化中!!  終わり

関連記事

  1. 新たな匠の世界へ

  2. 趣味を通じて

  3. 全身の健康は歯のメンテナンスから

  4. コバルトコーヌスについて

PAGE TOP